第12章 酒の効用
翌朝
「御館様、おはようございます。秀吉です。
お迎えに上がりました……起きてらっしゃいますか?」
襖の外から、遠慮がちに声がかかる。
あの淫らな情事のあとも、朱里はさらに何度も俺を求め、結局眠りについたのは、夜がかなり更けてからだった。
既に夜明け前には起きて身支度を整えていた俺は、褥に朱里を残し、文机の前で書状に目を通していた。
「入れ、支度は済んでおる」
秀吉と、その後ろには珍しく光秀も控えている。
「…あっ、起きておられましたか……(ほっ、よかった)
本日の予定ですが……」
秀吉から本日の予定を聞き、光秀からは各地に放っている斥候からの報告を受ける。
全ての報告が終わり、朝の軍議に向かうために立ち上がる。
「……ときに光秀……貴様、昨夜、朱里の酒に何を入れた?」
「ふっ、さすがは御館様。お気付きでしたか。
南蛮の媚薬を少々……いかがでしたか?
昨夜はお楽しみ頂けましたかな?」
「っなっ、光秀、お前っ、なんてことをっ」
「いや、なに、この間小娘が俺の御殿を訪ねて来た時に、媚薬に興味があり気だったのでな。くくっ」
「ふっ、貴様、主君の女に薬を盛るとは、良い度胸だな」
「滅相もない……御館様の息抜きになれば、と思ったまでで」
「ふん、まぁよい」
(あのように淫らな朱里はなかなか見れん。昨夜のことはおそらく覚えておらんだろう。……絶対に言えんな)
褥ですやすやと穏やかな寝息を立てて眠る、その愛らしい姿を思い出し、自然と口角が上がるのだった。