第103章 旅は道連れ
バシャバシャっと派手に水を絡げて近付いてきた信長様に、私はふわりと抱き締められていた。
「っ…信長様っ…どうなさったのですか??あ、あの…お足元が濡れてしまいます…」
「構わん」
「でも……」
草履のまま海に入ったせいで信長の足元は濡れていて、袴の裾まで海水に浸かっていた。
「貴様は本当に…少しも放っておけん女だ」
「そ、それはどういう…んっ…ふっ…」
悩ましげに眉を顰める信長様の顔が近付いて、私の問いを封じるように唇を塞がれる。
打ち寄せる波に二人して足先を洗われながらも、口付けは角度を変えて深く何度も重ねられた。
「んっ…ふぅ…や、待っ…あっ…」
唇を強く塞がれた息苦しさと抱き締める腕の強さに身悶えていると、目の端に慶次と三成くんの姿が入ってきて……
「んーっ、ンンッ!」
(や、やだ…二人に見られて…)
二人の視線に気付いてしまい、急に人目が気になりだした私はハッと我に帰る。
(あっ…私ったら、なんてこと…)
大好きな海に夢中になるあまり、人目も気にせず大胆に裾を絡げて足を晒してしまっていたことに、今になって気付く。
(はしたない…信長様がお怒りになるはずだわ。あぁ…どうしよう)
「んっ…信長様っ…ごめんなさ…い、私…」
「許さん」
きっぱりと言い切って私を抱き上げた信長様は、波打ち際まで大股で移動する。
バシャッと海水が跳ねて信長様の袴が濡れるのが申し訳なくて、私は信長様の腕の中で小さく身を縮こまらせた。
無言で波打ち際まで戻った信長様は、波がかからない場所に私をそっと降ろしてくれた。
「の、信長様…」
慶次たちの方を気にしつつ、乱れた裾を直しながら呼びかける。
「………貴様は俺を惑わせる才があるな」
「うぅ……」
ジトっとした目で睨まれては、弁解の余地もない。
「ご、ごめんなさい…軽率でした」
「朱里」
「は、はい?」
ーパシャンッ!
「ひゃっ…」
顔を上げた拍子に頬を濡らした水滴に驚いて目を見張ると、信長様はニッと悪戯っぽく笑っておられた。
「な、何をなさるんですか!」
「俺を惑わせた罰だ」
「っ…そんなぁ…」
濡れた頬を押さえ情けない声を上げる私を見て、信長様は愉しそうに笑う。
(もぅ…私だって貴方に惑わせられてばかりなのに…ふふ…)