第4章 二人目 チーズ職人ビー
「……リラちゃん、リラちゃん起きて」
ルカさんの声がする。
何だか背中が、…体が痛い。
「ん……」
目覚めて身を起こすとそこはごつごつした岩の上だった。
もうすっかりと日が上り、廃墟のような大きな建物の中に私たちは居た。
ここはどこだろう?
頭が段々はっきりしてくると同時に、ボロボロの壁紙や庭の風景からそれがビー君の家だとやっと理解した。
だけど、これは……?
そして。
「ここは……ビー君はどこ?」
「居ないみたいだ」
ルカさんの暗いその物言いから、彼から聞いていた寿命の話が咄嗟に頭に浮かぶ。
昨日のビー君の突然事切れたみたいに気を失った様子から最悪の想像をした。
「そ、んな。まさか」
「落ち着いて、リラちゃん」
愕然と口を両手で覆う私の傍らにルカさんが腰掛けた。
「多分悪いことじゃない。ビー君は無くなってない」
「……え?」
「魂が消える時は本人もだけど、家も綺麗に『消えて』しまうらしい。 こんな風に住処が壊れるのは、恐らく彼が救われて転生したってことだ」
「それって……」
それでは、彼の『想い』はどこへ行ったのだろうか。
……これが解放したということなのだろうか。
「その可能性の方が高いね」
と言うより……いや、これはまだ僕の推測だから止めとくよ。ルカさんはそう言って顎に手を当て何かを思案しているようだ。
見ると彼の地下の工房に続く階段があった辺りも一緒に土に埋まっていた。
転生………こんな風に、長い間を彼が過ごしてここで作ったものも壊れて無くなってしまうのだろうか。
その庭には唯一変わらず綺麗なままの時の木や草花が、石造りの崩れ落ちそうな家を飾っていた。
それはまるで、彼のひっそりとしたお墓のようで。
ビー君を悼む私の目からまた涙がこぼれルカさんが私の肩を手のひらで包んだ。
昨日道の途中で見掛けた花を摘み、彼と一緒に寝ていた岩の上に束ねて置いた。
手を合わせて祈る。
次の世界ではどうか、彼の心が寂しくありませんように。
……溢れるような笑顔で満たされる人生でありますように。