第4章 二人目 チーズ職人ビー
「……あれ? さっきのお兄さんは?」
今、私と先程の男の子は、和やかな雰囲気の中彼の家のリビングで紅茶を飲んでいる。
「彼はちょっと用事があるみたいで別行動なの」
「そうなんだ」
僕は暫くきみの中で休んでるよ。
……なんか特に心配することもなさそうだし。
やる気の無さそうな大きな欠伸の音が聞こえて、私の頭の中のルカさんはそれきり何の反応もしなくなった。
そういえば猫ってこんなものよね。
私は大いに納得してうんうん頷いた。
「自己紹介がまだだったよね。 私の名前はリラ。 あなたは?」
「僕の名前……何だろう?」
彼は困惑したような表情をして、手元のティーカップに目を落とした。
「ビーでいいかな。 彼等はいつもとても美味しい蜂蜜を僕にくれるよ」
この子、名前が無いのかな?彼の言う通り、微かに花の香りがする甘い紅茶を口に含んだ。
「お姉さん……リラさんは猫族?」
「うんそう。 私と一緒に居た男の人、ルカさんも同じだよ」
「へえ、僕はハムスター族。 あのお兄さんみたいに背が高くて格好良くなりたかったなあ」
ハムスター。 たしかネズミの仲間だ。
猫の時は分からないけど、今の私には狩猟本能は無い。見ればビー君の薄茶の丸い耳が時折ぴこぴこ動いている。柔らかそうなほっぺたと、つぶらな瞳はとても可愛い。
それにしても、ここは外から見ても大きな家だったけど、中もまた広く天井が高い。
備え付けの家具もまたそれに合わせて大きなもので、そんな背もたれの高いゆったりした椅子に腰掛けている小さなビー君は不釣り合いな印象だ。
……どれだけ長い間ここに独りきりでいたのかな。 寂しくないのかな?
「あの…ね、リラさん」
「ん、なあに?」
ビー君がカップを持ちながらそこに視線を落としたまま遠慮がちに言う。
「せっかく来てもらったんだけど、僕は力になれないと思う」
「え? ……あ」
私は戸惑った。
ビー君の佇まいから、ここに来た本来の目的を忘れてた。彼もルカさんと同じく私が来た理由を知っているらしい。