第1章 はじめての世界
ま、まさか……食べるって食べたって。
ここの世界には凶暴な人も居る、とは聞いていたけど、ここまでなの………。
どうしよう。私、五人どころか、ここから生きて出られるのだろうか。
顔から血の気が引いて、プルプルと震えている私に視線を移し、ルカさんが流麗に微笑む。
「大丈夫だよ。僕同族は殺さないことにしてるし」
「あ、そう………なんですか」
そんな彼から『殺す』などという物騒な単語が出てくると尚一層不気味に思え、どう言っていいのか分からない。
何が大丈夫なのだろうか。元猫のよしみで殺さない程度で、って事なのだろうか。
ただし、と前置きをして、彼は手にしているフォークでゆっくり空中に弧を描く。
「要求してくる以上は、こっちもそれなりに楽しませてもらうけどね」
私を見詰めた彼の瞳が一瞬縦長の猫のそれになったように見えて、ぞわっとした。
同族と気付いて最初、親近感さえ持ち始めていた気持ちが崩れかかる。
それ以上、謎のウサギ入りシチューは食べたいと思えなかった。
成弥、私に勇気をください。
色々おかしなこの状況。
その理由はつい最近まで、人の世界で大好きな飼い主と暮らしていた、私の猫時代のお話。