第1章 はじめての世界
とはいえ、厳密には私と同じく、人間では無いのだけど。
私にとってはこちらの世界に来て初めて出会った人………それだからやはり、緊張してしまう。
そしてじっと見られると、何だか気恥ずかしくてパンが喉を通らない。
元、家猫である私は、飼い主である成弥(なるや)以外の人に慣れていない。
乾いた口の中で、もごもごと咀嚼し過ぎて口の中で水分の抜けてしまったパンを、無理にこくんとお水で流し込んだ。
ふと、キマリ様の言葉を思い出した。
『良いか、五人と『繋ぐ』のだ』
む、つまり私は、この人と。
「凄くかわいいね。きみ」
「え?」
咄嗟に、あなたの方がずっとキレイです! という正直な賞賛が喉元まで出かかるも、その前に彼が続ける。
「きみの前に来た子はイマイチだったな。 事情があるにしろ泣きわめくだけで、ちっとも楽しくない」
「他にも、私のような方が来るのですか?」
「たまにね。いい暇潰しにはなる」
そう言いつつ彼がシチューの具をフォークでつつき、つまらなそうな表情をした。
落ち着いた印象の彼は私よりも歳上なのだろうけど、その仕草は行儀が悪く子供っぽい感じがして、少しばかりアンバランスに見える。
「いつもきみみたいな子なら、大歓迎なんだけど」
「それで、その子はルカ、さんとお友だちに?」
「………そうそう誰とでも気が合うってわけじゃないよ」
その人とは仲良くなれなかったのかな?
ルカさんは頬杖を付いていた顔から手を離すと、フォークでお肉の塊をぶすっと刺して持ち上げ、訳あり顔でそれを眺めながら呟く。
「友だちどころか……」
え、なに?
彼の視線の先には細い銀の柄に捕らわれた肉。それを見詰めている私の体が固くなる。
「彼女は同じ食べるでも、こっちの方が役に立ったみたいだね」
そう明るく言いあーん、とでも言い出しそうな大きな口を空け、彼はぱく、とお肉を頬張った。
「………!!」