第3章 一人目 案内人ルカ
そんな事があり、現在。
私は初めてここに来て訪れた、ルカさんのお家にお邪魔している。彼が注いでくれた香りの良いお茶の、口の広い器を両手で包んだ。
「きみ、そういえば名前は?」
食事を終えたテーブルの上は既に綺麗に片付けられていて、自分のカップに口をつけてルカさんが私に尋ねてくる。食事の時のあれこれから彼を警戒して、その視線や手の動きなどに注視しつつ答えた。
「はい……リラです」
リラ。彼が面白いとはいかないまでも、悪くない知らせを受けた時の反応と似た感じで少し目を細め私の名前を呟く。
「あの。私は『想い』を解放するお手伝いをしなければならないそうです」
「うん、知ってる」
思い切って、私がここに来た目的を言ってみると、ルカさんは私の予想の上をいく簡潔さでそう応えた。
逆に私の方が『ならないそうです』なんて、義務か伝聞かよく分からない言い方だと思う。だけど実際、分からない事だらけなのだから仕方が無いと自分自身を納得させる。
それでは、ルカさんはこれも知っていたりするのだろうか。
「あと……繋げ、と。これはどういう意味なのでしょうか?」
「……そうだね」
ルカさんは少しの間、私から目を外して空に視線を彷徨わせた。向かい側に座っていた椅子から立ち上がると、テーブル越しにそこに乗せていた私の手を取り、そのまま自分の胸に持って行った。
「あの……?」
「わかる? 僕の心臓の音」
緩く握られた手首の先にとくん、とくん、と薄い衣服の布地から私の手のひらへと流れ込む、あたたかな振動。
「は……い……」
それと静かな息遣いで、ルカさんが落ち着いているのが分かる。彼がちゃんと私にそれが伝わるかを確かめるようにじっと見てくるので、私の方の鼓動が大きくなった。