第6章 三人目 無頼漢リンク※
◇◇◇◇◇
「…………ってぇ」
「なんだよ、セロ。また腰が痛むのか?」
初老の男がからかうように俺に声をかけた。
長い漁に出ている俺たちはまだ夜明け前の暗い中、夜中のうちに掛かった魚を網から外している。
暗く寒い中のこんな作業を、しけた気分でやっていても仕様が無い。
わざと陽気な雰囲気を作りながら作業するというこの癖は、もうここでは一種の仕事のうち、といった体になっている。
そうはいっても痛むものは痛む。
ただでさえ普段からいかついであろう自分の顔にしかめっ面を作りながら腰と臀部の間辺りを手でさする。
前にリンクの野郎にやられた時、無様に吹っ飛んだ俺はその時しこたま腰を打ったらしい。
「こう冷えるとしょっ中痛むんだよ」
とんだ恥をかかされた当時の事を思い出し、忌々しげに俺はボヤいた。
「おっかない奴だったな、アイツ」
「普段何考えてるか分かんなかったけど、近所の子供やなんかとはよく遊んでたって聞いてたし、つい油断してたぜ」
「ああいうタイプにはもう近付きたく無いねえ。 実は子供を攫って食ってたって噂もあるらしいぜ」
「まあ、この手の噂はアテにならないけどな。 俺らも犯罪者みたいに思わてれる時あるし。知ってるか? 俺らも小さい女襲ってるとか言われてんの」
勘弁してくれよ!!! と周りの男たちが悲鳴のような声をあげ、その他の者たちも馬鹿馬鹿しい、という表情で肩をすくめる。
もう半年も前に、奴、リンクはここを辞め、自分の家にも滅多に戻っていない様子だった。
市場に漆器やグラスなどを売りに来る年寄りがいるらしい。
なんでも最近そこに大柄な若い猫族の男が年寄りと一緒に現れるらしく、それがアイツじゃないかとの話を聞いた。
「ちくしょう、今度会ったらタダじゃ置かねえ」
「無理無理無理!!!! 今度はお前、腰が使いもんにならなくなるぞ」
「じゃ、女になったら俺らが相手してやろうか」
「セロにか!? おい、勘弁してくれよ!」
「お前らな……」
陽の光が放射状に空から刺し込むにはまだ早い。朝焼けが僅かに水平線を細く彩る、暗い海の上。
船上には男たちの明るい笑い声が響き揺れていた。