第12章 本当の気持ち
「信長ちゃん、入るわよ」
昼過ぎ、敬太郎がノックもせず社長室へと入って来た。
「何だ貴様、ノック位しろ」
「そんな時間あったら、してるわよ!」
いつも口うるさい奴だが、今日は特に口調が熱く、焦りが見える。
「何の様だ?」
「セナが、......いなくなったわ」
奴はそう言うと、一枚のルーズリーフを俺の机に置いた。
「どう言う意味だ?」
訳がわからず置かれたルーズリーフを手に取り見た。
【ごめんなさい】
一枚のルーズリーフの角に小さく書かれた文字。
ドクンっと、心臓が嫌な音をたてた。
「さっき映画のスタッから連絡をもらって....、あの子、今日の撮影に行ってないらしいわ」
「まだ....部屋で寝ているんじゃないのか」
「それだけじゃないわ、あの子、昨日現場で急に泣き崩れたらしいわ。だから急いであの子の部屋に行ったら鍵も開いてて、この紙が置いてあったの」
昨夜の、泣きじゃくるセナの顔が思い出された。
「.....何をやってる、セナの事は貴様に任せたはずだ」
嫌な......予感がする。
「無理言わないで、あなたもよく知ってると思うけど、私達マネージャーは常に一緒にいるわけじゃないわ。あの子はまだこの映画と雑誌の二つしか仕事はしていないから、ここ最近はずっと一人で行かせていたの。信長ちゃんには分からないと思うけど、それは間違いなくセナの文字よ」
「それは......分かっている」
セナの文字は、奴の履歴書を見て覚えている。だからこれは、セナの文字だ。
だが......
【ごめんなさい】
広いスペースに、たったの六文字。
本当は、もっと何かを書こうとしていたのだろうか?涙で濡れて乾いた痕が、紙の上にいくつも見て取れた。
心がざわざわと音を立てる。
「奴に連絡は?」
「本人にかけても出ないし、実家には帰ってないそうよ」
ならば、どこへ行った!?
「........アンタ達、何かあった?」
鋭い目で、敬太郎が探りを入れて来た。