第2章 暴食の末路
クマラがエルバフの者達と心を通わせ始めてから数十年、一人の女性がエルバフの地に足を踏み入れた。名をカルメルと言い、表面はとても優しげで慈悲深そうはイメージを持つ女性だった
だが、クマラはその表面の裏に何かがある事をうっすらとだが感じていた。口角の上がり方も、口調も自然としたものだがどこか違和感がある。どうしてそう感じるのか分からないクマラだが、自身より長生きしているあの長ですら違和感を感じていないと言うなら、自分の勘違いだろうと目を閉じた
そしてカルメルがやってきたエルバフでは、数日後海軍による巨兵海賊団残党の処刑が行われようとしていた。故に少々ピリついた雰囲気がエルバフを固めている
「私が止めて参りましょう」
そう口にしたカラメルは、無謀にもたった一人で海軍船へと向かい始めた。エルバフのもの達は唖然とそれを見送る中、クマラはそれを見守るべく彼女の背を追う
たった数分で、ことは終わった。彼女の言葉に胸打たれた海兵達は、処刑への前向きな気持ちをすり減らしていく姿を見せる。実行に移そうとした将校も、その言葉に目を閉じどこかへ連絡したかと思うと残党を解放した。雨雲が、地上へ怒りとして雷雨を齎す
「あぁ、シスターカルメル……!!なんという慈悲だ!」
「ありがとう……このご恩は忘れない!」
残党達の涙ながらの感謝に、カルメルはホッと安心した様に微笑んだ。クマラはその状況に目を細め、悩む様子で顎に手をやる
「……胡散臭」
感情の少ないクマラにカラメルの言葉は通用しなかったのか、ただただ胡散臭いやつと言う印象をクマラはカラメルに向ける。だがエルバフの民はそうではないようで、同胞を救ってくれたカラメルに対し、聖母(マザー)と呼ぶようになった
彼らがそれでいいならいいか、とクマラは深く考えずにカラメルを歓迎する。クマラを見た時のカラメルはどこか驚いた様子で、それでいて穏やかに「宜しくお願いしますね」と笑って見せた
不信感は、拭えない。例え友と言ってくれる者の信頼した人でも。その不信感が、自分の感情の欠如が理由ならば少し理不尽だな、なんて思いつつクマラはカラメルを賞賛する団体から1歩下がるのであった