第2章 暴食の末路
あれから数ヶ月。エルバフの状況を建て直すことに貢献したクマラは宣言通りエルバフを後にするため海に旅立った。ハイルディンから散々ごねられたクマラだったが、大人になって強くなり迎えに来てみろと挑発した為何とか解放され波に揺られている
それにしても、とクマラは受け取った新世界用のログポースを見つめ目を細めた。自由気ままに突き進むのも良いが、まずはリンリンの様子を見ることが先決である彼にとって、無闇矢鱈に行動し入れ違いとなることだけは避けたい
ちゃぷちゃぷと小舟から手を伸ばし海に手を入れるクマラは、そこに映る自身の姿に目を細める。生きて百年近くの肉体は年老いること無く生き続け、死ぬ事は許されない身体。頭を割られようと、心臓をくり抜かれようと、大砲を浴びようとも死ななかった身体。自身ですら、どのようにすれば死ねるのか分からない身体
死ぬ事は諦めていない。まだまだ探究心だってある。だが、どこか疲れのようなものを感じているクマラは目を閉じ船の縁に両腕を置いてそこに顔を伏せた。この新世界で小舟で突き進むのも、彼の死への危機感の無さからである
「……リンリン」
一人、自分の面倒を見た少女の名を口にしたクマラは深く溜息を吐き起き上がった。その赤い瞳が見る先には、だだっ広く海が続いている。目に見える先に島の影は、皆無
元気ならば、それでいい。苦しい思いをしていないのならばそれでと彼はシャーロット・リンリンを案じた
あの子はいい子だ、まだ10にも満たぬ優しい子。笑顔の似合う家族を大切にする優しい子。その子が、幸せであるように。クマラは彼女に会えぬ今それをただ願うことしか出来なかった