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夢過ぎる水溜りボンド

第1章 episode1


一日ってこんなに長いの?と思うほど
週末が来るまで一日一日が長く感じられた。
楽しみな予定があるといつもこう。
人間って欲に忠実な生き物だと改めて考えさせられる。

今日はなるだけ目立たないようにして行こう。

そう思い、長い前髪を耳にかけないまま
後ろ髪をしまうように黒いキャップを被り、大きなパーカーにジーンズ、スニーカー。
その姿はまるで男の子のよう。

最後にスマホをポケットに入れ、リュックを背負って玄関の姿見を見たとき
ふと「お兄ちゃん…女の子らしい服装が好きなのにガッカリするだろうな…」と
そんなことを考えたが、目の前の扉に心はズシンと重く脈打った。

開けなきゃ…

外が怖い。冷汗が出る。冷たい手足が鉛のように重く感じる。
駅まで歩いて、電車に乗り、乗り換えさえ間違えなければ
お昼過ぎにはお兄ちゃんに会える。
何度も自分に言い聞かせて、深呼吸を繰り返した。

ピロン!

メッセージの受信音に固まっていた体が跳ね上がる。

カオル□ ちゃんと起きてるかー?今日は気を付けておいでね!

なんてことない連絡。でも、…お兄ちゃんありがとう。
こわばりが解けて、私の体は数か月ぶりに扉を越えた。

俯きながらではあるが、一歩ずつ着実に歩みを進める。
そして私は小さな駅から兄のいる都内への向かった。

経路は何度もシミュレーションしていたが
都内に近づくにつれ、人が増えてゆき不安に襲われた。
俯く私は、何度もスマホを見ながら歩いている人とぶつかってしまった。

ごめんなさい…!

私の声は誰にも届かない。
でも…誰の目にも自分が映っていないことを実感し
少しずつ心が静かになっていくのを待った。

ここまで来れた。あと少し。

ふ―っと一つ長い息を吐き、改めて兄から送られてきている地図を確認しようとした
その時、

ドンッ!

また誰かにぶつかってしまった。
いや、今回は後ろからぶつかられた。の方が正確か言い方かもしれない。
私はその拍子にスマホを地面に落としていた。
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