第5章 episode5
「うちの大学受けてみん?」
想像もしなかった話が飛び出した。
私は驚いた。
鳩が豆鉄砲を食ったよう。まさにこんな感じだった。
今言われた内容をすぐに処理することができず
なんとも間の抜けた顔になってしまった。
「トミー!言葉足りてなさすぎぃ!笑」
見かねた佐藤さんが富永さんへツッコミを入れると
改めて富永さんは、その突拍子もないような言葉の真意を話し始めた。
その提案は、私の思いもよらないものだった。
同じ大学に入って全面的、専属的に
水溜りボンドのサポートをしてほしい。
自分たちには面白い計画があるから。と。
この時、実は…と
来月一日、つまり元旦からYouTubeの投稿を始めることも
教えてくれた。
このことはまだサークルのメンバーもほとんど知らせていないことらしい。
「…やります。やらせてください。」
この時の私は、YouTubeのことなんかなにもわからなかった。
水溜りボンドのネタもきちんと見たのは今日が初めて。会話したのも。
でも、2人の目を見てこの人たちが如何に真剣かが伝わってきた。
生まれて初めて「私」を必要とされていると感じた。
両親の娘である私。
兄の妹である私。
違う。
私としての私をこの人たちは必要と言ってくれている。
そう思ったら、返事は決まっていた。
その後のことはぼんやりとしか覚えていない。
でも、次の日から高校卒業資格の勉強は受験勉強になり
サークルの練習場所へ行かなくなった。
そして器楽室のドアを開ける新しい日常が始まった。