第1章 1、新人研修
「…はあ」
夜のヨコハマを席巻するポートマフィア
高くそびえ立ち、夜の街の闇を吸い込まんとばかりするそのビルの最上階で、ため息の音が響いた
ポートマフィア首領、森鴎外
組織の構成員でさえ立ち入ることが禁じられるその扉の奥で彼は、一枚の書類を見つめながらまたため息をついた
見つめられた書類は、履歴書と言うにはあまりにも情報量の多い、とある構成員のリストである
そこには、住所や電話番号はもちろん、クレジットカードの暗証番号や、行きつけの美容室、恋愛遍歴など構成員を示すありとあらゆる情報が記載されている
ただ一箇所、異能力の情報を除いて
どんなに調べても、問いただしても彼女の異能力を知ることは出来なかった
それでも、絶対に不可能といわれる任務を難なくこなしてくる
彼はただただあり得ないと思った
組織が異能力を知らない、そんな事態があるのだろうか
そもそも異能力を隠し通すことなど可能なのだろうか
書類の中で薄く微笑む彼女にある種の不気味さを感じた彼は、一つ賭けてみることにした
目には目を、歯には歯を、不可能には不可能を
こうして新人研修は幕を上げた