第32章 アズカバンの囚人
「わぁ!!」
掴んだと思ったが、シリウスはヴィオラを振り落とそうとするように上へと飛ぶ
すごい勢いで飛んで、上昇していく
「っ!」
(ダメよ、耐えなきゃっ
シリウスを助けれるのはこの方法しかないんだから)
「シリウス」
何とかして語りかける
話を聞いて貰えるように
「大丈夫、大丈夫だから
私が守るから
全部、きっと守ってみせるから」
言い聞かせるかのように紡ぐ言葉
届いているだろうか
彼の残っているかすら分からない心に、響いているだろうか
『だから、もう還ってくる時間だよ』
思いを言葉にのせる
そして
優しく、口元にキスをした
柔らかい光が2人を包む
満月に照らされて、蝶が舞い、幻想的な風景が出来上がっていた
蝶は沢山の色に光っていた
赤に青、黄色に紫にピンク
暗い真夜中を彩るように、色を変えていく
シュウゥゥゥゥ
黒い霧となって、ディメンターの姿が消えていく
後に残ったのは人間のシリウス
記憶の中の彼そのものが、目の前にいた
グラッ
「あ」
忘れてた
「重力!」
シリウスは今人間に戻った
ディメンターは空を飛べるが、人間は無理だ
つまり
(あぁまずい!落ちる落ちる!!)
おまけに、シリウスの周りにいたディメンター達はまだたむろしている
(そうだ、確か物陰の方に…)
「ハリー!ハーマイオニー!」
2人の名前を呼ぶ
上を見上げるハリーと気絶しているハーマイオニー
しかしヴィオラが呼んだのはそちらではない
ブワッ!
「!」
綺麗な銀色の光が現れる
半透明で、輝く光
その光は、牡鹿となってディメンター達を追い払っていく
やがて
グラッ
ザパーン!!
光は消え、吸魂鬼達はいなくなった
そして、ヴィオラとシリウスは重力により、湖へと落ちた
ゴポゴポ
「っ」
息が出来ない
冷たい水が体温を下げてくる
とても寒い
(私、泳げないんだったっ…)
実は自分はカナヅチなのだ
浮き輪があっても溺れてしまうほどの
そんなヴィオラが湖に落ちて、シリウスを気遣える余裕なんてない