第30章 銀の花の闇
セドリック目線
静かに、彼女を抱きしめる
涙に濡れた目で見つめられた時、胸の高鳴りを感じた
「ありがとう」と、小さな唇で告げられた時、強く心臓が脈打ったのを感じた
こうせずには、いられなかったのだ
ヴィオラは抵抗しなかった
自分も、決して離そうとしなかった
動いたら、この時間が終わってしまいそうだから
ずっと、このままでいたいと思った
しばらくして、胸に顔をうずめるヴィオラに顔を近付ける
コツンと額が軽くぶつかり、間近くに彼女の端正な顔立ちが見えた
綺麗な瞳が、こちらを見つめている
心なしか、その頬が赤く染まっている気がした
セドリックは喋る
「監督生なのに、仕事サボっちゃったな」
「ふふ、戻った方がいいんじゃないの?」
「いいよ、今はサボらせてもらう」
「悪い監督生だね」
「ははは」
「……………なんか、いつも助けられてばかりだね」
「そんな事はないよ、僕は好きで君といるから」
「ありがとう、本当に」
「どういたしまして」
静かに、この時を過ごした
クスクスと笑い合って、2人だけの時間を
「あぁ………ロマンチックですね……」
マダム・ポンフリーが呟く
彼女の目線の先
そこには、セドリックとヴィオラのいるベッドがあった
カーテンで遮られ、中の様子は見えない
が、マダム・ポンフリーには見えていた
彼女のベッドに付けているオレンジ色のライトが、影を作り出していたから
カーテンに映された影は、顔を近付け合わせていた
決して離れようとはせず、2人だけの時間を過ごしているというのが感じられた
影は離れようとしない
ずっと引っ付きあって、心から通じ合っていた
それから、医務室の明かりが消えるまで、影はずっと一緒にいた