第57章 『霞は晴れているか、風は吹いているか』
風がびゅうびゅうと吹いて、またあの懐かしさを連れてくる。
そこにいるのは懐かしい人、今はもういない人。いるはずのない人。
私が会うはずのない人。
私が先に死んでしまったので、成長した彼の姿を目にすることはないはずでした。
けれど、立派になった彼はそこに立っていました。
『不死川くん』
君が一歩引いて、私がためらいがちに歩み寄って。
そんな関係も、もう、おしまい。
『私、無念でした』
言うことのできなかった言葉を告げた。
『君の…君たちの、……次世代の行く末を見届けられなかったことが、本当に無念だったのです』
時間がなくて、伝えられなかった言葉。
『はは』
彼は、声を出して笑いました。
くしゃりと笑いました。
次の瞬間、風に吹き飛ばされるように、彼の姿が花びらのように散っていきました。
『霧雨さん、俺と、巡り会ってくれてありがとう』
最後に、満面の笑顔でそう言いました。
消えてしまった。
不死川くんは、もういない。
『……何度だって、会いに行くよ』
君が私に、巡り会ってくれたように。
私は何度でも何度でも、同じことを繰り返して、君に巡り会うんだ。
私はそっと目を閉じた。
ここには、もう誰もいない。