第42章 誰かの記憶ー生きていればー
体を斬り刻まれ、死を覚悟した。
水から脱出した霧雨ちゃんが咳き込んでる。ってことは、呼吸ができてるってことね。良かった。
けど、状況は良くないみたい。動きが鈍い。
上限を追っている。ダメ。無理よ。最強と言われるあなたでも、上弦には勝てない。
だめよ。ここで死なないで。
……ああ、悲しまないで。私の死を悲しまないで。
でも、少し嬉しいかな。
だって、父親を殺して、他人に心を閉ざしていた…そんなあなたが、私をおもってくれてるってことでしょう?
ああ、死にたくないなあ。
私は生き残れないのね。
春風も、引退してから一切会わなくなってしまったし。こんなことになるなら、もっと会いに行けばよかったわ。
ねえ、春風。
まだ、覚えているかしら。
一緒に修行した日のことを。
『いいなあ、天晴は。俺は雷の呼吸が使えないから、才能がないのかもな。』
『でも、派生の呼吸が使えるようになったじゃない』
『天晴みたいに体は大きくないし、足も速くないし、きっとすぐだめになるんだろうなあ。』
『ふざけんじゃないわよ。生きていれば、強くなるでしょ』
生きていれば、強くなれる。
果たして、私は強くなれたのかしら。
ちゃんと有言実行できたのかしら。
春風、あなたは強くなった。
けれど、あんな大怪我をしてしまって。
怪我が治らないなら、あとは時間切れを待つしかない。
春風。
ああ、ごめんね。
「安城殿」
ごめんね。霧雨ちゃん。もう答えられない。
名前なんて呼ばなくていいのよ。
もう、いいから。