第20章 咲き乱れ
「ッ!!!」
実弥の声で目を覚ました。
「~!!!」
今度はカナエだ。しかも抱きついてきた。
「え、何?どういう状況?」
「キリキリちゃんずっとここで寝てたんやで!!どんだけ揺すっても全然目え覚まさへんかったんよ!?」
アマモリくんが真っ青な顔で言う。
……ここ、将棋部の部室だ。
「へ?」
「探し回ったんよ!全然姿見えへんから…!!」
私は起き上がった。みんないた。
ちょっと離れたところに冨岡くんも、悲鳴嶼先輩も、宇随先輩も。
「そうしたら、ここで寝ていたんだ。」
冨岡くんが雑に説明した。
「卒業式で保健室も開いてないから~。私、冨岡くんに呼ばれたんだけどなにもできなくてどうしようって手当たり次第に人を呼んだら賑やかになっちゃった。」
カナエが補足する。いや、先生を呼ぶとかもっとあったでしょう。
起き上がった私は手に違和感を覚えた。
手を開くと、中には将棋の飛車の駒が。よく確認するとあたりには他の駒が散らばっていた。
「……」
私の頭の中にさまざまな記憶が流れてくる。
私の記憶。過去のこと。全て。
前世の私と会えたこと。そして…無理に入れ替わったこと。
前世の私がアマモリくんと廊下で泣きあったこと。悲鳴嶼先輩に会いに行ったこと…。
「………。」
「…?」
覚えて、ないのか?
アマモリくんも。悲鳴嶼先輩も。
「………」
もしかしたら、全て夢の中で起こったことなのかもしれない。夢の中で、向こう側にいた私が…。未練を断ち切るための、壮大な夢だったのかも。
「………」
「おい、本当に大丈夫か?」
実弥が心配そうに聞いてくる。
「……平気…夢を見ていたのかも」
私は手の中の飛車を畳に落とした。
飛車は、盤上で縦横に自由自在に動かすことができる。
前世の私は、過去のしがらみから抜けて、自由になれたのだろうか。
それは、私にはわからないことだけれど。