第12章 BE IN SIGHT
その晩。ひとり部屋で風呂に入り、髪を乾かしてスキンケアをしている鏡越しに首筋が映った。
少し赤くなってる。
このくらいでよかったと言うべきか。
刀が少し当たっただけでこんなになっちゃうんだな。
逆に見えてなくて良かったのかもしれない。
そこへ、
「慧さま入りますよ。今宵は小狐と愛し合いましょう」
小狐丸がやって来た。謎の違和感と共に。
ドレッサーの前の椅子から立ち上がった私に、
「もうお風呂は済みましたか?」
聞いてくる。
「うん。ねぇ、もう一回呼んで?」
「慧さま…?」
やっぱり。一瞬の違和感はこれだ。
「…さま、いる?」
「要ります!私にぬしさまを呼び捨てろというのですか?」
「呼び捨てたくないんならほかにも、慧ちゃんとか、慧っちとか慧ぴょんとか…」
いくつか案を出してみたが、どれも小狐丸には似合わなく、言いながら笑ってしまうと、
「慧殿は?」
小狐丸なりの妥協案を出してきたが、
「やだよ。返事しないよ?」
今から小狐丸とセックスするのだろうにその最中に慧殿なんて呼ばれたら無理だ。
小狐丸はもう困りすぎてしゅんとしてしまっている。
「でしたら慧、さん」
「はい」
それなら大丈夫。他の男士に呼ばれた時にも違和感がなかった。
返事をすると嬉しそうに顔を綻ばせた。
だけど、
「我が儘言ってもいい?」
「なんでしょう?」
「小狐丸に抱かれてる間は呼び捨てて欲しい」
そう言うと、
「善処、します」
ふわりと縦に抱き上げ、小狐丸の逞しい腕が私のお尻の下に入る。腕に座らされているような感じだ。
まるで私が小さな子どもになったような感覚。
小狐丸の首に腕を掛けると目の前に整った顔。
目を閉じてそのまま口づけた。
「今宵は小狐の胸でお啼きなさい」
小狐丸の目がキラリと野性味を帯びる。
またキスをしながらベッドに沈められた。
暫く小狐丸の身体が私の上に乗った状態でキスが続いた。
軽く体重を掛けられていて、身動きは取れない。
舌を絡められ、いつまでも離れない唇に息が苦しくなってきた。
「っ、小、狐丸っ」
無理矢理顔を避けて唇を離すと、
「そんなに涙目になってしまって。溺れそうでしたか?」
笑った。