第3章 龍虎退治
「信長様、お待たせを」
「……揃ったな」
広間へ足を踏み入れ、私は即座に後悔した。
(無理にでも断ればよかった。場違いにもほどがある……!)
政宗さんに促されて、舞ちゃんの隣に腰を下ろす。
居並ぶ武将たちは、装いはもちろん顔つきまで普段と違っている。
そんな場所に居る、私と……、舞ちゃんだけが明らかに浮いていた。
きっとこれが、戦いに向かおうとする武士の顔なのだ。
(政宗さんに気圧されてここまで来てしまったけど、話を聞くのが怖い……)
「用向きは、先触れで伝えた通りだ。越後の龍と甲斐の虎がよみがえり、この俺に牙を剥きおった」
信長様の低い声が広間に響く。
「龍と虎って……?」
「上杉謙信と武田信玄–––とうに死んだはずの、信長様の宿敵だよ」
「謙信、信玄!? その名前なら、ついこの間、聞いたばっかり……」
舞ちゃんが急に声を上げて、武将全員がこっちを見る
「有名な怪物の名を最近まで知らなかったの? 信じがたい物知らずだね、あんた」
「っ、ええっと……あはは、そうかも。色々教えてくれてありがとう」
舞ちゃんの疑問に呆れたように家康さんが答えると、何か思い出したのか、舞ちゃんは青い顔しながらしろどもどろになっていた。