第9章 偽りの許嫁
「おいで、茜。すぐに旅支度を始めよう」
「待て、光秀」
「話の長い男は嫌われるぞ、秀吉」
「いいから言わせろ。百歩譲って、お前が何を企んでいようが俺を騙していようが、もうどうでもいい」
「…………」
「一億歩譲って、信長様を裏切っていても構わない。俺がお前を叩き斬れば済む話だ。だけどな、茜だけは裏切るな。何があろうと、絶対にだ」
(秀吉さん……)
「…………」
ふ、とかすかに微笑んだだけで、光秀さんは何も言わなかった。
私の肩を抱き寄せて歩き出しながら、腕組みして見送る秀吉さんにただ、ひらりと手を振ってみせた。
…………