第9章 偽りの許嫁
「ところで、噂になってるらしいぞ、お前ら」
仕事の話が済んだあと、政宗さんが手作りのおはぎで私たちをもてなしながら、そんなことを言い出した。
「噂って?」
「あの光秀が、ついに陥落したってな」
「陥落って、まさか……っ」
「『明智光秀が茜にベタ惚れして片時も離したがらない』と、城下でも大騒ぎらしい」
(尾ひれがひどい……!)
「ほうほう、それは初耳だ」
言葉とは裏腹に、涼しい顔して笑みすら浮かべる光秀さんは、どこか満足気だ。
(この顔、絶対、嘘だ……)
「政宗さん、誤報ですよ? 光秀さん、急いで訂正して回ってください。 城下には光秀さんのファン……じゃなくて、光秀さんを慕ってる人がたくさんいるんですから」