第2章 Kiss her hand
「茜ちゃん。入ってもいい?」
障子の向こうから、不意にかけられた声に、「どうぞ、入って。」と返事をすると、私は読んでいた書物をそっと閉じた。
「えへへ。お邪魔します。」
そう言って、部屋に入る舞ちゃんは向日葵の様な笑顔を私に向ける。
私がこの城に迎え入れられてから、彼女は毎日のように私の部屋に遊びに来た。
本人が言うには、ガールズトーク出来る相手ができて嬉しいから、らしい。
「それでね……信長様ったらね……」
あーでもない、こーでもないと舞ちゃんの話を、うんうん、と聞くのが、このガールズトークのお決まりのパターンだ。
相槌しかできない私みたいなのを相手にして、舞ちゃんは楽しいのだろうか?
(人の話を聞くのは得意なんだけど……。)
自分の生い立ちがそうさせてしまうのか、分からないけれど自分の話しをするのは苦手だ。
(普通はお互いの話で盛り上がるのよね。舞ちゃん、ごめんね)
心の中で謝ると、私は今日も舞ちゃんの話に耳を傾ける。