第3章 ホタテのポワレ アスパラガス添え 義元が焦がしたバター醤油
ぐったりと膝の上で背を預ける私の乱れた着物を、義元さんが直してくれる。
「皺になっていないといいけど……」
義元さんにそんなことをさせるのは申し訳ないと思いながらも、私の身体は指先ひとつ持ち上げるのも億劫なほどで、いまは素直に身を任せることにした。
そして丁寧に皺を伸ばしながら器用に整えられていく着物は、私の呼吸が落ち着く頃には、すっかり元通りに着付けられていた。
「ごめんね、無理さたかな……。続きはまた今度──でもね、〇〇……」
抱き締められたまま後ろから覗き込むようにさえ、吸い寄せられるように見上げた先で、ガラス玉のような綺麗な瞳が私を見つめる。
「こんなこと、俺以外の男とは絶対にしちゃだめだよ……わかった?」
その瞳を真っ直ぐ見つめながらこくりと頷くと、義元さんはいつものように形の良い薄い唇を優美に綻ばせた。
そして、近づく予感に目を閉じ…
ちゅっ
それは口の端に触れてすぐに離れていった。
「…っ」
胸の焦げ跡がヒリリと痛むのを感じて、堪らず私は義元さんの手をそっと握った。
すぐに、触れ合った指は隙間を縫うように絡み合った。
言葉にできない想いを確かめ合うかのように──
終。