第8章 我が心から(→)
俺がまだB級だったときだ。ガンナーをやることは決まっていた。ただ、他は決まっていなくて、どんなトリガーセット構成にしようかと考えていたら、隊長の二宮さんに「エンジニアに相談するのがいい。呼んでやる」と言って、誰かに連絡を取った。そのあとやってきたのが葉瑠さんだった。それが出会い。
俺がやってみたいことや、二宮さんの隊の考えとか、一通り聞いた葉瑠さんが出した構成案は、すごくしっくりきた。
後から、元アタッカーだと聞いて、納得したよね。
葉瑠さんと付き合い始めてわかったことだけど、普段、特にボーダーで見るときは、お姉さんって感じなのに、二人のときは、女の子って感じになる。初めて「葉瑠」って名前を呼んだときは、すんごい照れてて可愛かったなあ。葉瑠が自分に向ける顔が好きだ。「好きだよ」って書いてある顔。うん。のろけだよ。
時間があるときは、葉瑠が一人暮らしする部屋に行ったりする。高校の課題だったり、テスト勉強をするときもあるけれど、そんなとき彼女は、横で本を読んでいることが多かった。だから、本に挟むしおりがいつも同じだと気づくまでに、そう時間は掛からなかった。
別にしおりなんていくつも持ってないだろうけどさ。気になったのは、しおりを見つめる彼女の表情で。
「そのしおり、作ったの?」
「うん。押し花にして、ラミネートかけたの」
「へえ。花、好きなの?」
「そういうわけでもなくて。……えーと……人にもらったんだよ……」
「へえ……」
ふと、わかってしまった。これ以上、追及してほしくないという彼女の気持ち。好きな人からもらったのかな。元カレとか。だって、しおりを見るその顔は……
ある日、彼女が隊室にやってきた。嬉しくて声をかけたら、書類を持ってきたと言う。
彼女が帰ろうとしたとき、あのしおりがポケットから落ちた。拾って渡すと、またあの顔をして、しおりを見つめる。
これ以上は見たくなくて、何も言わずに奥の部屋へ戻った。
嫉妬だ。あの花を渡した人への。今回は拾ってしまったけれど、あんなの無くなってしまえばいい。俺だけに、あの顔を向けていればいい。
我が心焼くも我なりはしきやし君に恋ふるも我が心から(万葉集3271)