第6章 思へどもなほぞあやしき
「高級チョコをもらったの!食べる?」
友人にチョコをもらった。「あんたチョコ大好きでしょ。プレゼントだよ~」だそうだ。ありがたい。こんなにいいチョコがもらえるなんて。せっかくだから、澄晴くんと一緒に食べようと思った次第だ。
「へえー。食べる食べる」
澄晴くんが寄ってくる。綺麗な箱を開けると、見た目の違うチョコが4つ並んでいた。
「なるほど~高級チョコっぽい」
「なんか、チョコっぽく見えないねえ。何だろ。アクセサリー?」
「うんうん。宝石とか」
こういったものは普段お目にかからないので、二人で箱を覗き込んで観察する。
「あ」
ふと、澄晴くんが言った。
「せっかくだから、やってみたいことがあるんだけど。チョコ半分こして食べようよ」
うんうん、と頷いた。多分、このチョコレートは全部違う味だ。二人で半分ずつ食べれば、全てのチョコレートを味わうことができる。
しかし、やってみたいこととは?
澄晴くんは、一番左のチョコレートを指で摘まむと、半分だけ自分の口の中に入れて挟んだ。私の方へ顔を向ける。
「うん?」
動きが止まる。彼は目を細めて笑った。これはあれか。私が、澄晴くんに咥えられたチョコレートを半分かじりにいかないといけないのだ。
「ほあ、おえあうよ(ほら、溶けちゃうよ)」
「……」
意を決して、顔を近づけ、チョコレートを咥える。かじりながら感じるのは柔らかい唇。彼とチョコレートの香り。
「甘いねえ」
チョコレートを咀嚼する。彼の言うとおり、甘い。というか、それしかわからなかった。高級チョコレートの味わいを感じる余裕がない。
「あーあ。顔真っ赤っか」
今度は澄晴くんが顔を寄せて、キスをした。彼の左手が後頭部を引き寄せる。
「っんぅ……」
深くなるキスに、甘さに、何かが溶けていくようだった。
思へどもなほぞあやしき逢ふことのなかりし昔いかでへつらむ(斎宮女御集)