第7章 サヨナラも告げないまま
零くんに送ってもらい、家に帰ってきて。当然だけど部屋に入れば一人きり。いつも一人だけど……今日はなんだかぽっかり穴が空いたように虚しい。
あの日もそうだったかもしれない。
“あの彼”と遅い昼食を食べた後、彼は「少し出かけてきます」と言って部屋を出ていった。
てっきり翌日までずっと一緒に過ごすものだと思ってたから、拍子抜けしてしまって。
特に何をするでもなく、しばらくボーッとテレビを眺め。
お風呂の掃除をして。
夕食こそはさっと食べれるよう、ある程度準備をして、彼の帰宅をただ待っていた。
連絡先も交換してないから、いつ帰ってくるのかとか、電話のしようもない。
出掛けようにもその間に彼が帰ってきたら、彼が家に入れなくなってしまうし、家に居るしかない。
結局外が暗くなった頃に、ようやく玄関のチャイムが鳴り。小走りでドアを開けに行き、ドアの外に居たのは、勿論“あの彼”だった。
「……お帰りなさい」
「はい。只今戻りました」
彼はにっこり微笑んでいる。嬉しい、というか、誰かと“おかえり”と“ただいま”の挨拶を交わすのってかなり久しぶりで、変に気分がフワフワする。両親が死んでからはずっと一人暮らしだったし。
「誰かに“おかえり”と言われたのは久しぶりです。悪くないですね」
「昴さんもそうなんですね!私もなんです。久しぶりすぎて歯が浮きそうなくらい……あ、あの、ごはん、ある程度準備しておいたんですけど、食べます?」
「……どちらかと言うと……今は食事よりさん、でしょうか。お昼も遅かったですしね」
部屋に入ってきた彼の纏うオーラが一変して甘くなった気がする。髪に指を通され、心臓が大きく跳ね出した。
心の準備が出来てなかっただけに、言葉が出てこない。
「僕が帰ってくるのを、待っていてくれたんですよね」
「はい……」
「待っていてくれる人が居るというのは中々良いものです」
「で、ですかね……」
「ええ。とても」
頬に手が添えられて、自然と少し上を向かされて。唇が重なる。
彼の掛けている眼鏡の縁が触れる所が冷たい。でも、反対に身体の中にはどんどん熱が篭っていく。
たっぷりと時間をかけて、唇は離れて。
腰に手を回され、部屋の中へ進んでいき。
狭い部屋だ。あっという間にベッドまで辿り着いた。