第6章 好きの定義とは
まさかこんなことになるとは……でもすごくよかった。
再び隣に寝そべってきた零くんに肌を撫でられながら、ぼんやりそんな事を思っていた。恥ずかしいから口には出さないけど……
「は肌も綺麗だよな……一応言っておくけど、僕は最初からこういう事するつもりで家に誘ったんじゃないからな」
「うん……分かってる。大丈夫」
「ちゃんとのこと、好きだから」
「……あ、ありがとう」
改めて言われると、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
私も、たぶん零くんが好きだ。
今こうやって裸でピッタリくっついてることが、ものすごく居心地良く感じるんだから。
「風呂入るか?」
「……うん」
「一緒に入る?」
「えっ……と、あの、ひとりで大丈夫……」
「そうか?じゃあ今度。この次は一緒な」
「うん……」
ついそう言ってしまったけど。本当は、少しだけ、一緒に入りたかったりもする……
でも零くんは私を強引にお風呂に連れて行ったりはしないし、私が嫌と言ったことは絶対にしないだろう。きっとどこまでも優しい人なんだろう。
先に私がお風呂に入ることになり。そういえばメイク落としやらが無いことに気付いた。
気付いたんだけど、零くんが洗面台をゴソゴソして、メイク落としと思われるものを取り出したからビックリして固まってしまった。元彼女のもの、とか……?
「その顔……元カノの忘れ物だと思ってるだろ。違うからな?前の仕事の時たまに変装もしてて。それを落とすのに使ってただけだ。捨てなくて良かったよ」
「え……女装ってこと?」
「女装も出来なくもないけど……もっと凄いぞ。全く別人になれる……簡単に言えば特殊メイクみたいなものかな」
「へえ……なんかほんとにスパイみたい」
「正真正銘のスパイだったからな」
どこのメーカーのだか知らないけど、それを使うと気持ち悪いくらいメイクがスルッと落ちた。
そういえばお風呂場も綺麗に掃除されてる。
一人で浴槽に浸かりながら、一人だからこそなのかな、また考えてしまった事がある。
零くんがこれからまたスパイの仕事をすることは、あるのか?って。
私の知ってる限りでは、そういう職務に就く人って、そこそこ若かったり、家族がいない人が多いって……つまり零くんは打って付けな訳なんだけど……聞きにくい。