第5章 光差す窓、温かい背中。
「さん。お願いしたい事があります」
食事を終えた頃、少し改まった感じで彼がこちらを向いて言ってきた。
「はい?」
「もう一晩だけ、こちらに泊めて頂けませんか」
……え。家決まったんだからもう出ていくのではなかったのか。
「無理にとは言いません。それこそ元々は外で寝るつもりでしたし」
「ううん、大丈夫です……」
それならあと一日は、彼と一緒にいられるのか。それを思って少し嬉しくもあり、やっぱり寂しくも感じ……
でもそういう気持ちに整理をつける時間もなく、慌ただしくその一日は始まっていった。
支度をして彼でも着れる部屋着を買いに行き、食材もたっぷり買い込んで帰ってきて。
久しぶりに割とちゃんとした料理を作ることにした。
「手伝います」と言い出した彼に野菜を切らせてみたものの、彼は私以上に手際が悪かった。包丁で怪我しないか、見ててヒヤヒヤするレベル。
さして料理が上手くもない私が教えながら一緒に作ったはいいけど……昼食のつもりだったのに食べ始めたのは午後二時を回ってからだった。
でもああやって彼と一緒に料理をするのはちょっと楽しかった。まるで恋人と過ごしてるみたいな時間だった。そんな甘い関係じゃないけど、そんな気分だった。
彼は「自分の名前は“スバル”」だと名乗った。名前までカッコよかったんだよなー……あーまた朝から色々思い出してしまった。
今日はアメリカ行く時に着ていく新しい服でも買いに行こうと思う。水野先生程ではないけど、なんだかんだ私も半分は旅行気分なのかもしれない。