第3章 忘れようと思っても
どうすればいいやら……しばらく無駄に部屋の中をウロウロし、ベッドから少し離れた所のソファに座った。(ちなみにウチはリビングと寝室は別れてない)
「さん?こっちに来ないんですか?」
「へっ?」
「来ないのなら……僕がそちらへ行きま」
「ややや!そこにいてください!」
「……これではあなたの顔を見てお話もできません」
「……う……ん、と……」
「ほら、早く……」
まるで暗示でもかけられたように、意志とは関係無く身体はフラフラと彼の方へ近付いていき、ベッドの横に座り込む。
彼の手が伸びてきて、頬に触れられ、指先が肌の上を滑っていく。触れられた所がどうしようもなく熱い。
「大胆な方だと思えば……男の裸を見ただけで真っ赤になったり……」
「え……っ……」
「変わった人だ……僕を家に上げたのはアナタなのに」
「それは、外で寝るなんて可哀想だと思って……」
「それだけですか?……てっきり僕と、こういうことをしたいんだと思ってましたが」
親指の先が唇に触れてくる。ふに、ふに、と優しく押されて……何も言えず、出来ず、固まってしまう。
次の瞬間、身体を持ち上げられてベッドの上、布団の中へあっという間に引きずり込まれた。
「きゃ……っ……!!!」
「違うんですか?」
……彼となら、万が一にこうなってもいいと思ってはいた。けど実際にそうなってみると思考の整理が追いつかない。
目の前には何も纏わぬ彼の肌、私の心臓はさっきからバクバクうるさいし、何より声が出せない……
「もし嫌なら、早く逃げてください……」
……嫌ではないんだけど、けど。
目線を少し上にあげると、やっぱり目が合う。彼は……微笑んでるけど、下で会った時とは別人のような顔付きだ。熱を孕んだような瞳に吸い込まれそうになって、目が逸らせない。
顎の先を掴まれ、頭ごと彼の方を向かされ。ものすごく近くに顔が迫ってくる……もう、彼の息遣いも分かる距離だ。
「据え膳食わぬは男の恥……と日本では言うんですよね」
……待って、この人日本人じゃないの?たしかにそういう言葉はあるけれども。
「では、頂きましょうか」
あっ、と思った時には唇同士が触れていて。あれこれ考えるのは諦めて、目を閉じた。