第2章 恋はまだ始まらない
が自室に入っていった後の花壇前。未だ降谷は相手の男を睨んだまま、今にも噛み付きそうな顔をしている。
一方、黒っぽいニット帽に黒い革のジャケットの出で立ちの相手の男は、身体の前で腕を組み、降谷を見てはいるが……口元はニヤリと弧を描いている。
「……まさかこんな所で会うとはな。降谷くん、元気だったか」
「僕の質問に答えろ、どうして貴様がここにいる」
「散歩をしていたらこの花壇が目に止まったんだ……俺はここに居てはいけないのか?」
「ダメだ、帰れ」
「なんだ、ここは降谷くんの家だったのか」
「違う」
「ではさっきの女性が君の恋人だからか」
「違う」
「それなら俺は降谷くんに怒られる筋合いも無いだろう」
「赤井……とにかく今すぐ帰れ」
「そう気を立てるな。俺だって君に聞きたいことがある」
「……」
「先程の女性も警察の人間なのか?」
「彼女は一般の協力者だ……どうしてさんを気にする」
「そうか……では帰るとしよう」
「おい待て!」
「さっきは“帰れ”と言ったのに、今度は“待て”か」
「赤井……っ」
赤井と呼ばれたこの男は、あの世界的テロ組織を降谷達日本警察と共に壊滅させたアメリカFBIの捜査官であり、降谷にとっては切っても切れない因縁の宿敵でもある。
日本での捜査を終えアメリカに戻った筈の赤井が何故今この場に居合わせたのかは、彼本人にしか分かり得ない所だが……
赤井はゆっくりと身体の向きを変え、降谷に背を向け歩き出した。再三の降谷の呼び掛けに反応する事も無く、その姿は夜道に消えていく。
降谷のスマートフォンには再び同僚からの着信が入り。降谷は電話に出るなり「すぐ戻る」とだけ言い放ち通話を強制的に終了させた。
「どうして赤井がここに……」
彼は一人呟きながら車へ戻り、警察庁へ向かった。