第14章 二人の選んだ道
それから約一年後、翌年の秋の終わり頃。
「どうだ……?……」
「ここは……大丈夫です」
ワシントン南東区、アナコスティア地区。首都ワシントンでも最も治安が悪いとされている場所。私も“一人で行ってはいけない”と言われている地区周辺が今日の私の仕事場だ。
何度も仕事では来たけど、たしかに良い雰囲気の街ではない。
今だって物珍しそうにこっちを見てくる男性が道端に何人かいるけど……寄せられているのは好奇の視線ではない。彼らからは敵意だったり、卑しさを感じる。
年が明けて少しした頃から、私はFBIの元で働くことになり、同じ頃、零くんは潜入捜査に着任した。
私と零くんは、別に急がなくたって後々一緒になることもできる。今自分達がすべきことはコッチだ、と結論を出したのだ。
当然ながら同棲の話は一旦白紙になり、零くんの家の契約は解除、私の家を借りっぱなしにして、そこに零くんの大事な私物は置いてある。
鍵を持ち合って、好きな時に好きな様に使ってもいい、としてはいるものの、数ヶ月に一度帰国して自分の部屋に帰っても、零くんが来た痕跡は見当たらない。
この一年、一度も会ってない。
連絡は取れてはいるけど、零くんからたまに電話が掛かってくるだけ。こちらからは掛けられない。
その代わりと言ってはアレだけど、零くんから“信用のおける部下”だっていう男性を紹介された。風見さんと言う。彼となら普通に連絡が取れるので、何かあったら彼に連絡するように、って。未だに一度も連絡した事はないけれど。
私の父親的存在、水野先生は、私がアメリカへ行くことを快諾してくれた。
ただ、“赤井さんにはあまり関わるな”と言われたもんだから、きちんと秀一さんと私との間にあった事は自分から話した。
彼とはもう仕事相手でしかないから大丈夫だと。
「本当にそれでいいんだな?」
「降谷さんと離れても大丈夫なのか?」
「俺がついてなくても平気か?」
等々……あの日は正にお父さんみたいなセリフを散々並べられたのをよく覚えてる。
ちなみに零くんの潜入捜査の事は伏せてある。