第12章 密会は堂々と行われる
あれから赤井さんと何度かのメールのやりとりを経て、いよいよ彼と会う日、金曜の夕方となった。
私の仕事が終わる時間に大学まで迎えに行くと言われたけど、それはお断りさせて頂き、程近い駅で待ち合わせ。歩いてその場所を目指す。
水野先生には特に何も言わないまま、零くんには仕事の関係の人と食事に行くと伝えた。(嘘は吐いてないつもりだ)
ビル風が強く吹く寒い中、だんだん待ち合わせ場所は近くなってきて。人混みの中を目で探せば……赤井さんはすぐに見つかった。
まず周りの人より一段高い所にあるニット帽を被った頭が見えて。ロングコートの前を開け、腕を組み壁にもたれている姿は、哀愁漂うというか、カッコイイけど少し近寄り難い雰囲気かも……
その彼の顔がこちらに向き、目が合った。笑うとまではいかずとも、表情が少し緩んだ気がする。
少し早足で彼の元へ向かう。
「こんばんは!お待たせしました……」
「久しぶりだな。元気だったか」
「ええ。赤井さんも変わらずですか?」
「まあ、そうだな……行こうか」
広い歩道を赤井さんと並んで歩く。ワシントンで会った時はそれ程までには感じてなかった筈だけど……この人すっごく背が高い。そういやイギリスの血が入ってるって言ってたもんな……羨ましい。
食事の店は“行きたい所がある”と言う彼に任せていて。タクシーに乗り連れて来られたのは、某有名寿司店……
「赤井さん……ここ、高級店ですよ……」
「別に値段は関係ない。俺は日本に来たらココと決めているんだ。それにココは顔が効くもんでね」
「そうなんですね……」
アメリカに住んでるのに日本の寿司屋に顔が効くって凄くないか。
しかし店内に入ると、赤井さんは“赤井さん”では無かった。
「羽田様ですね。お久しぶりです、こちらへどうぞ」
「ああ。今日もよろしく頼む」
「……?」
赤井さんは今“ハネダ様”と呼ばれたと思う。まさか“赤井”は偽名なのか、それとも“ハネダ”が偽名なのか……?
まあ、赤井さんって日本で潜入捜査もしてたみたいだし、もしかしてその時の名前が“ハネダ”なのか……?
全く分からないけどとりあえず案内されるままカウンター席に通される。