【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集
第2章 ※いつでもその覚悟はできてる 左馬刻
左馬刻さんの話によると、あの女性はクスリを扱っているボスの愛人なんだそうだ。左馬刻さんに興味を持っていて、情報を引き出して欲しいと入間さんにお願いされたらしい。
「えっ……じゃあ、本当に何もしてないんですか…?」
「あぁ。銃兎に頼まれてあの女と夜を何度か過ごしたのは事実だ。だがすぐに睡眠薬を盛ってたからな、向こうは俺と寝たと思ってる。信じれられねぇなら、その部屋での出来事をカメラで撮ってある。それを見りゃいい」
「いえ…信じます」
左馬刻さんの様子からして、嘘ではないだろう。
「最初は断ったんだが、アイツ色々引き出してきやがって…」
「浮気をしてないことは、分かりました。でも…」
「…なんだよ、言いたいことがあるなら言え」
「……お誘いした日、どうして断ったんですか?」
「あー……」
左馬刻さんが煙草を灰皿で捻り潰し、片手で顔を覆った。
「なんつーか…何もしてねぇにしろ、お前に黙って他の女と会ってることに罪悪感はあった。だから、あん時はお前に触れるべきじゃねぇって思ったんだよ」
本当はその場で押し倒したかったんだけどな、と笑いながら私の髪の毛に触れる左馬刻さん。私は、とにかく左馬刻さんが浮気をしていたわけじゃないと分かって、心の底から安心した。
左馬刻さんがゴソゴソと何やら鞄を漁り、私の方に向き直った。
「」
「…はい」
「結婚すっか」
「えっ…」
左馬刻さんの手には、ドラマなどで見慣れた四角い箱が。開くと、中から綺麗な指輪が現れた。
「次の記念日に、とか考えてたんだけどよ。お前が俺様との未来を不安に思ってるっつーなら、早いことカタチにしたほうがいいだろ」
「でも…っ、そんな、私、なんかで…いいんですか…?」
「アホ、がいいんだよ。………んで、返事は?」
そう問いながらも、左馬刻さんは私の左手に手を添える。涙を堪えようと下唇を噛んだが、我慢しきれなかった涙が溢れ出した。
「……っふぁい」
「ふはっ、ふぁいってなんだよ」
「愛してます…左馬刻さん…っ」
「おう、俺様の方が愛しとるわ」
するりと嵌め込まれた指環は、元からそこにあったかのようにピッタリで。私は左手を抱えて、ぐしゃぐしゃの顔で左馬刻さんを見つめた。
左馬刻さんは優しく微笑み、私を抱き寄せて頬にキスを落とした。
fin.