第59章 必然(玄奘三蔵)
誰かが俺を呼んでいる、そんな気がして。ただひたすらに険しい山道をあがっていく。500年もの間幽閉されているものがいる、と村人たちの制止を振り切って山道を歩いていく。
『ちょっと、三蔵遅い』
『お前が早いだけだろうが』
『煙草吸いすぎなのよ馬鹿三蔵』
『うるせぇ、無駄に早いだけの阿呆頼華』
『もう知らん!』
『おい待て!阿呆!』
たたた、と駆け足で先を行く頼華に溜息をつきながらひたすらに山道をあがる。
『…ここか』
着いた先には、崖の中に切り出して作られた牢屋がひとつ。その前で頼華は、しゃがんで誰かと話しているようだった。
幽閉されていたやつがどうやら呼んでいたらしく、何故かは分からないが俺はただ牢からやつを救い出した。
『名前、何て言うの?』
『おれは孫悟空』
『悟空、ね。私は頼華。こっちは第三十一代唐亜玄奘三蔵。よろしくね。』
『よろしくな、頼華と三蔵!!』
あの日から頼華にやつはべったりだ。慶雲院のやつらにバレれば、めんどくさい事になると思ってやつ__悟空を隠蔽していたが食物庫の中身がほぼ食い尽くされ、寺院の裏の柿の木まで食い荒らす始末。
どうするべきか、と三仏神に謁見していた最中に事は起きた。
”斉天大聖”としての本来の姿を解放した悟空に、俺は痛い程に感じる”気”に恐慄いて。思わず一緒にいた頼華を己の後ろに隠した。
『…三蔵!』
『…お前は絶対に後ろにいろ』
頼華は護らねばならない存在なんだ。
”気”にやられてる?この、俺が。そんなわけない。こいつはただの大食らいの猿の餓鬼、だと。
魔天経文を用いてやつを止めれば、やつの目から止めどなく流れる涙に俺は思わず手が止まった。
『…また、置いてかれるって思って』
そんなやつの頬に、小さな手が添えられた。
『…置いてかないよ、私も、三蔵も。』
安心したように眠るやつを撫でながら、頼華はやつに言った。
『…どこにも行かないからね。三蔵も、ね。』
『…あぁ。』