第57章 椿の花(玄奘三蔵)
「寒すぎる…」
「こっち来い」
「…だーかーらー!悟浄たち居るってば!!」
「気にするな」
「気にするわ!」
「まーたやってら。いい加減見飽きた」
「そうですか?見てると面白いのは変わりないです」
「八戒お前なぁ…」
「さみーし腹減った!!!」
「クソ猿、お前さっき食ったじゃねーか」
天竺を目指す三蔵一行。季節は移り変り、寒さが増しているこの場所。
「わぁ!雪!!」
「…おい、暴れるな」
「だって綺麗だよ!」
目の前に広がるのは一面雪化粧の施された村。雪を見れば、寒いのも忘れて頼華は三蔵の懐から飛び出そうとしていた。
「おい、勝手にどっか行こうとすんな」
「だって!雪に埋まりたい!」
「何だそれは…お前がいなくなったら俺が寒くなるだろ」
「…仕方ないなぁ」
三蔵の懐から手を出すと、手のひらに落ちてきた雪は手の熱でじわりと溶けて行った。
宿について、また部屋の窓から降り注ぐ雪を見つめる。ふと、下を見れば村の子供たちが雪遊びをしているのが目について、可愛いななんて。
「…また雪見てるのか、好きだなお前」
「…雪見てたら父様、思い出すから」
「…そうか」
小さい頃に、よく遊び相手になってくれていた父様。雪の降る日に、雪だるまをよく作ってくれた。
三蔵と一緒で、金山寺前に捨てられていた私を拾ってくれた父様。
銀色に似た白い髪に、青色の目。禁忌の子なら真紅の目と髪色なのに、その真逆のような見た目の私。自分自身が小さい頃は大嫌いだった。
父様はいつも『綺麗な髪と目を大切にしなさい』と言っていた。今でも、よく分からないけれど。
そんな父様が居なくなったあの日。父様の血と、妖怪の血を浴びた私の髪色は真っ赤に染っていて。
『俺が洗ってやるから』と三蔵が洗ってくれたっけ、なんて思い出した。
でも、それしか覚えていない。思い出そうとすればするほど、血の海が頭をよぎって少し頭が痛くなる。
「…おい、」
「…江流」
「!?…いきなりどうした」
「んーん、ちょっと思い出しちゃって」
「…そうかよ」
背後から三蔵に与えられる熱に、私は体を預けた。