第16章 おやすみ
二人で外出ができたのは
その日っ切りでした。
さんは、抗がん剤治療で
私もドラマの撮影が始まって
会える回数すら、減ってしまった。
時は一刻一刻と進んでいき
気がつけば、出会ってもうすぐ
半年が経とうとしています。
車イスを押して、屋上にも
連れていってあげられない。
ただ、「和さん」と呼ぶ
小さな手を、握ってあげることしか
私にはできなかった。
「和さん・・・」
「はい」
「怖い顔してる」
「あ、そう?ごめんなさい」
「ううん。かっこいい」
「ふふっ。偉そうなこと言っちゃって」
夏が近づくにつれて
さんは元気を取り戻した。
普通はあまりないことなんだけど
このお姫さまはお元気なことです。
それが、何よりの幸せです。
こんなにも、人の幸せを自分の幸せに
する日がくるなんて、思ってもなかったわ(笑)
辛い治療も乗り越えた私たちに
神様は更なる幸せをプレゼントしてくれた。
それが、悠を授かったことでした。
抗がん剤治療で、子供なんて
ほぼ100%無理だと思われたのに
さんのお腹には、私たちの子供。
ある意味大きな問題なんですけどね。
なにせ、芸能人なもので・・・。