第3章 生きる為には食べよ
「可愛いなぁ」
すすーっと、もう一度背筋をなぞる燭台切様の指。
「っ…ふぁぁッ…」
また、先程と同じ感覚が身体を走る。
全身に電撃が走るような、
ゾワゾワと擽ったいような、それでいて、身体をフワフワと宙を浮くような感覚。
「しょ…く、だいきり、様…」
何かにすがりつかないと自分を見失いそうで、彼の着ている服をぎゅっと掴んだ。
「フッ」と燭台切様は笑う。
その表情は我が子を見守る親の様な…
小さな子を慈しむ保護者の様な…
そんな表情に似ていた。
「本当はね、このまましてしまいたいんだけど時間切れだな」
抱きしめられていた腕が解かれる。
燭台切様の熱を感じていた肌が、ひやりとした空気を纏った。
「…燭台切様?」
何か粗相をしてしまったのだろうか?
気を削いでしまうような行動をしたのか?
ここの人達に気に入られなければ、私はどうなる?
叱られる?
あの店に戻される?
また、捨てられる?
もしかして、殺される?
頭の中を急速に駆け巡る不安感。
一度絶望したのに、今の行為で温かさを知ってしまったから…
また、奈落の底へ突き落とされるのが怖くなった。
『もしかして…』という思いが消えなくて、身体がガダガダと震え出した。
「怖がらせちゃったかな?ごめんね。もうすぐ、乱くん達が来るから、本丸を案内して貰うついでに湯浴みをしてくるといいよ」
横たわったままの私の乱れた衣服を直して、燭台切様は立ち上がる。
「燭台切様。あの…」
咄嗟に私も身体を起こした。
振り向いた燭台切が言う。
「ねぇ、彩。さっきも言ったけど、僕が立候補する事を覚えておいてね。ちゃんと優しく、大切にするよ」
その言葉の意味が分からない。
分からないのだけれど…
私がコクリと頷くと、彼はまた優しく微笑んだ。
「じゃぁね」
パタンと障子扉が閉まる様子をぼんやりと眺めていた。