第12章 馬の耳に
誘拐事件から2か月
弟者の腕のギプスが取れたころ
「弟者さん。あんまり無理しないでくださいね」
とが心配そうに声をかける
当の本人はというと
「大丈夫大丈夫!!」
と言いながら素振りを始める
暖かい春の日差しに誘われては
弟者と庭に出てみたはいいが
まさか木刀を持ってくるとは思わなかった
以前、この庭を見たときには
土埃しか見えなかったが
今は花壇にパンジーが咲き誇り
蝶が春を祝うように舞っている
こんなきれいな景色を前に
木刀を一心不乱に降っている彼は
情緒というものを感じない人間なのだろうか…?
「ところで弟者さん。花粉症は大丈夫なんですか?」
「ん?あーもう大丈夫だよ!」
木刀を振るのをやめ
ぶいとピースサインを掲げる
つい最近まで涙目になっていた彼はどこに行ったのか
見る影もない
と二階から
「おとじゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
……おついちの荒げた声が聞こえた
「げっ!!おついちさん!」
「ギプス取れたからって暴れるなってさっき言ったばかりでしょう!?」
どうやら洗濯物を干している最中に
木刀をもつ弟者を見つけたらしい
「今日という今日は許さねぇぞ!」
そう言うとおついちはベランダの柵を乗り越え
庭に落ち……降りてきた
そのまま弟者のみぞおちに一発拳をお見舞いする
「ぶへぇ!?」
拳をもろに受けた弟者はそのままダウン
おついちに洋服の襟を掴まれずるずると引きづられていった
「……びっくりした」
少し、落ち着いたような表情ができたのは
がこの家に慣れてきた証拠だ
ということにしておこう