第11章 【孤独な子供】
「どうせ『魔法薬学』も今年で終わりだ。来年は受ける必要がないし、いっそ0点で突き進んだらどうだ?伝説が生まれるぞ」
「そんなお為ごかしは止してくれよっ!あんな授業だって一応僕の将来がかかってるんだ!!そりゃあ君は――」
「――私は?私には、もう将来を気にしてくれる人なんていないぞ」
静かにそう言うと、ハリーは言葉を失った。
そう、例えホグワーツでどんなに良い成績を取ろうと、喜んでくれる親はもういない。仮の親は、数か月前、実父であるヴォルデモートに殺された。それはその場にいたハリーが1番良く知っている。
ハリーは俯きながら呟いた。
「……僕にだって、いないよ」
「ハリーにはシリウスがいるだろう?れっきとした名付け親だ」
「クリスにだって……シリウスがいるよ」
「ああ、だけどハリーには敵わないよ」
嫌味ではない、ただ純粋にそう思った。ハリーとクリス、2人並べてどちらの方が大切かと問えば、きっとハリーを取るだろう。何と言ったって兄弟同然の大親友の息子で、直に名付け親にまでなったのだ。
それに比べクリスは、命を助けられたとは言え、所詮たった1か月ちょっと一緒に暮らしただけの同居人だ。本来なら比べるべくもない。ハリーもそんな事は分かっているだろう。
少し間をおいて、躊躇いがちにハリーが口を開いた。
「その……言い出せなかったんだけど、君の……お母さんの召喚の杖――」
「ああ、あれか。あれはあの墓場に置き忘れたままだよ。今頃ヴォルデモートが大切に保管しているんじゃないか?」
「ごめん、大切なものだったのに、取り返せなくて……」
「いいよ。今の私には不要なものだ」
ちょうどその時、休み時間終了の鐘が鳴った。午後からは北塔の天辺で『占い学』だ。急がないと間に合わない。クリスは立ち上がって手を差し出した。
「行こうか、ハリー。遅れた所為であの婆さんに目を付けられたくはない」
「――うん」
2人は視線を合わせ、互いに笑い合うと北塔に向かって駆け出した。
あの日を境に失ったもの、手に入れたもの。それは数えれば沢山あれど、この手に掴んだものはきっと一生のものだ。
――だがクリスはまだ知らなかった。自分が“それ”と引き換えに、いったい“何を”失ったのかを。