第10章 【アンブリッジ】
ベッドに寝転がりながらぼんやりとそんな事を考えていると、パタパタと足音がしてルームメイトのパーバティとラベンダーが入って来た。
クリスは咄嗟にベッドのカーテンを引き、寝たふりをした。何故そうしたのか自分でも分からない。だが、今は誰とも話したくない気分だった。
2人の絶えまないお喋りを聞きながら、クリスは必死に眠るよう努めた。しかし眠ろうとすればするほど目が冴え、結局ハーマイオニーが部屋に戻って来るまで眠りにつく事が出来なかった。
ハーマイオニーが部屋に入ってくると、それまで2人っきりで仲良くお喋りしていたパーバティとラベンダーがピタリと話しを止め、急にハーマイオニーに話を振った。
「ねえハーマイオニー、知ってる?例の噂」
「あら、何のこと?」
「とぼけないで。ハリーが『例のあの人』を復活させたって話し」
「それどころか、セドリックとクリスを生贄にしようとしたって……」
セドリックの名前が出た瞬間、クリスは胸が苦しくなった。目の奥がツンと痛くなり、クリスは唇を噛み毛布をかぶって声を押し殺した。
本当は3人の前に出て、あの夜何があったのか一から十まで説明したかったが、それだけの心の余裕がなかった。
(セドリック……セドリック、セドリック、セドリック)
どんなに会いたくても、どんなに名前を呼んでも、もう2度と姿を見せてくれる事はないし、声を聞く事も出来ない。父も、そして母も――。
人が死ぬとは、こう言う事なのだとクリスは痛感した。
やがて夜も更け、ハーマイオニー達の規則正しい寝息が聞こえてきても、クリスは胸が痛んで眠ることが出来なかった。