第1章 The summer vacation ~Sirius~
「シリウス!!放せ!」
「ははは!無理だ。こんな可愛い子を放っておいたら男が廃る」
シリウスは笑いながらクリスを抱きしめると、その大きな腕の中にクリスをスッポリと収めた。
完全にシリウスのペースにはまっている。こんなのはおかしい。そもそも自分はセドリックが好きだったんじゃないだろうか。それなのにもう心変わりか!?
いや、その前にルーピン先生はどうしたんだ。3年生の時はあんなに熱を上げていたのに!
いやいや、それを言うならハリーはどうした?物心ついた時から、二言目にはハリー・ポッター、ハリー・ポッターと言っていたじゃないか。
その時、不意にドラコの顔が浮かんできて、クリスは胸が痛んだ。
もう二度と見る事はないだろう、ドラコの笑顔。それは大抵嫌みったらしい笑顔ばっかりだったが、いつも傍にあった事には変わりない。だが、もう見る事は許されないだろう。
急に大人しくなったクリスに、シリウスは不思議そうに顔をのぞき込んだ。
「どうかしたか?」
「シリウスは……ピーターに……親友に裏切られた時、どう思った?」
ふと、シリウスの顔に影が落ちた。まるでアズカバンから出て来て直ぐのような、瞳に光が無いやつれた顔。それを見て、クリスは聞いてはいけない質問だったと後悔した。
「悪いっ、シリウス!今のは聞かなかったことに――」
「いや、いいんだ。――そうだな、強いて言うなら……信じられなかった。信じたくなかった、かな」
「信じたく、なかった?」
「あぁ、あんなにジェームズの腰ぎんちゃくみたいに後ろに引っ付いていた奴が、結果的にジェームズを殺す事になるなんて……頭では分かっていたけど、やはり信じたくなかった」
「その気持ちは分かる。……私も、信じたくない。家族みたいに傍に居た人が、いきなり仇になるなんて」
「そうだな……お互い辛い道行きだな」
そう呟くと、シリウスは優しくクリスの髪を撫でた。その手が心地よくて、クリスはもっと近づこうとシリウスに身を寄せた。その仕草を見て、シリウスは小さく微笑むと先ほどよりも優しくクリスの頭にに口づけをした。
嬉しいけど、ちょっとだけ心が痛いその口づけは、幼い頃父と交わしたあの甘い禁じられた果実の香りがした。