第8章 【悪夢】
仄暗い墓場、頭に響く甲高い笑い声、不気味な面を被った人の群れ、亡者共の嘆き、死の匂い、死の、死、死、死、死死死死死死死――。
――嗚呼、これは悪夢の再現だ。
緑色の閃光が、真っ直ぐこちらに向かって来ている。クリスが死を覚悟した瞬間、目の前に現れた長身の男が……父と呼んでいた人が、ゆっくりと草の上に倒れた。
どんなに手を伸ばしても、手は空を切るだけで届かない。声にならない声で、クリスは叫んだ。
「――父様あぁぁっ!!!」
ハッと、クリスは自分の叫び声で目を覚ました。時計を見ると午前3時を回ったところだ。
ここ最近はシリウスが一緒に眠ってくれていたので、嫌な夢を見なくなったが、いなくなった途端これだ。クリスはベッドの上で膝を抱え、顔を埋めた。
いったいいつになったら、あの悪夢を見ずに済むのだろう。あれから2か月以上経つのに、まだ慣れない。
いや、もしかしたら一生慣れる事なんてないのかもしれない。15年間、父と信じてきた人が目の前で殺されたのだ。忘れろと言う方が無理だ。
暫く膝を抱えたままじっとしていたが、眠気は完全にどこかへ行ってしまい、眠れそうにない。仕方なく、クリスは紅茶でも飲んで気分を落ち着かせようと、厨房に下りて行った。
階段を下りていくと、ざわざわと人の話し声が聞こえてきた。きっと大人達が会議を開いているのだろう。
そっと応接間の前を通り過ぎると、柱の陰からクリーチャーが恨みがましい目つきで応接間を睨んでいるのが分かった。
「クリーチャー、そこで何をしている?」
「こっ、これはグレイン家のお嬢さま!……クリーチャーは何もしておりません。そろそろ掃除でもしようと思っていたところでございます」
「そうか……まあ良い。それより紅茶を淹れてくれないか?ミルクと砂糖をたっぷりで」
「――か、かしこまりました。それでは厨房の方へどうぞ」
騎士団の機密事項を盗み聞ぎしていたのを邪魔されて、クリーチャーは悔しそうに軽く舌打ちをすると、腰をかがめて厨房へ向かった。