第37章 【真の悪夢】
ハグリッドが生傷だらけで歩いているのを見るのは、今年に入ってからもう何度も見ていた。
理由は分からなかったが、多分ハグリッドの事だから、授業でちょっと危険な生物を仕入れたかなんかだろうと思っていたがとんでもない。
そう、とんでもない事に私は今――巨人を目の当たりにしている。
* * *
始まりはクィディッチの試合中の事だった。始まって5分かそこらの時、ハグリッドがやって来て、ちょっとついてきて欲しいと言い出したのだ。
ハッキリ言ってロンの下手なプレイを見るよりは良いだろうと、ハリー、クリス、ハーマイオニーの3人はハグリッドに連れられ、禁じられた森の奥深くにやって来た。
そしてそこで見たのが、ハグリッドの弟と言う、巨人のグロウプである。
「――じゃ、そう言う事で」
クリスは踵を返し、この危険区域から出ようと試みた。
「待ってクリス!1人で逃げないで!!」
「頼む!俺は近々クビになる!そうなったらコイツに良くしてやる人間は誰もいなくなっちまう!!」
「いやいやいや、無理だ無理。人間には出来る事と出来ないことがある」
このハグリッドの弟だと言うグロウプ。
推定身の丈5メートルで、巨人にしては小さい(らしい)。言葉は殆ど通じず、木の幹を掴んで揺らすのが最近のマイブーム。
ハッキリ言わせてもらう。――こんな怪物と意思疎通を試みろなどと、どの口が言う!!
忘れらない、ノーバートと言うドラゴンの赤ん坊。アラゴクと言う巨大蜘蛛。
ハグリッドはいつもいつもトラブルを持ってきたけど、もう今回ばかりは付き合いきれない。
そう言えばフィレンツェが「ハグリッドのやろうとしていることは無駄だ」と言っていたが、確かにこんな巨人を相手にしても、全て無駄に終わるのは目に見えている。
「悪い事は言わない、ハグリッド。今すぐ元の山に返せ」
「そんな事出来ん!こいつはチビだから、仲間たちにいじめられとった。返したらまたいじめられる」
「ハハハチビとはよく言った。私の知らないうちにチビと言う言葉の意味が変わっていたらしい」
つい口から出たクリスの嫌味に、ハグリッドが顔をしかめた。
しかしその後ろで、グロウプが傍に生えていた松の木を、どこまで揺らせるか試して遊んでいるのを見て、とても言葉を撤回する気にならなかった。