第36章 【W・W・W】
ここ最近、ハリーが情緒不安定なのは誰の目にも明らかだった。だがほとんどの人が、テストの為に神経が過敏になっているんだろうとしか思わなかった。
しかし月曜日の夕方になって、何故落ち着きがないのかがはっきりとした。
「ハリー、そろそろスネイプの所に行く時間じゃないのか?」
「…………」
「……ハリー!?」
「聞こえてるよ。スネイプとの訓練は……もう終わったんだ。後は1人でできるから良いってさ」
「まあ!それじゃあ『閉心術』を会得したのね!?」
ハーマイオニーの明るい声とは対照的に、ハリーの返事は沈んでいた。スネイプとの授業で、何かあったのは一目瞭然だった。
「どうしたの、ハリー?」
「また嫌味でも言われたのか?」
「いや、違う、実は……父さんの事についてなんだ」
思ってもみなかった返答に、ロンもクリスもハーマイオニーも何て言って良いのか分からず黙ってしまった。
ハリーのお父さんとスネイプの仲が悪かったのは知っているが、何故今頃になってその話を持ってきたのだろう。
クリス達が不思議そうな顔をすると、ハリーはバツが悪そうにモゴモゴと説明を始めた。
「スネイプの部屋で、見ちゃったんだ。過去に父さんが……スネイプをいじめていたところを。僕、どうしてもハッキリさせたいんだ。父さんが、本当に皆の言う通り素晴らしい人だったのかって。じゃないと、あの姿はあんまりにも……」
その姿がどれほどのものだったのかは知らないが、ハリーがこんなに落ち込むくらいなんだから、相当印象が悪かったのだろう。3人は言葉を失った。
「僕、シリウスに会おうと思う。会って本当の事が聞きたい」
「会う……って、どうやって?」
突拍子もないハリーの発言に、3人は息をのんだ。ハリーはじっと考えるように、それでいてもう気持ちは決まっているかのような目をしてこう言った。
「アンブリッジの暖炉を使う」
「ダメよ!!」
ハーマイオニーが間髪入れずに叫んだ。しかし考えてみれば、手紙は全て検閲されているし、煙突飛行ネットワークも魔法省の指揮下だ。
唯一見張られていない暖炉があるとすれば、それはきっとアンブリッジ自身の暖炉だけだろう。