第34章 【DA危うし!】
『ザ・クィブラー』事件から1カ月以上が過ぎ、世間も生徒もこの話題は全て語りつくしたと言っていいほど語った後の事だった。
山のようなフクロウ便も届かなくなって、アンブリッジはまたガマガエルのような満面の笑みで学校内を闊歩するようになり、生徒たちに娯楽らしい娯楽はなくなった。
それでなくとも3月を過ぎ、4月に入る頃には『O・W・L』の為に宿題が今までの倍は出るようになって、ヒステリーを起こす生徒が出てきた。
まずハンナ・アボットがその第1号だった。『薬草学』の授業中に突然「あたしじゃ駄目よ、あたしじゃ駄目なのー!!」と、泣きじゃくり医務室に運ばれた。
次の犠牲者はマイケル・コーナーだった。ハンナ同様『魔法薬学』の授業中に「片角カタツムリの目が俺をにらんだ!」と叫び教室から逃走。
しかし相手が悪く、スネイプの呪文一発で気絶させられた上に医務室に運ばれた。
そんな不幸な話が世間をにぎわせている中、クリスは『O・W・L』よりも頭を悩ませる問題があった。
それはフィレンツェの課外(?)授業である。別にフィレンツェが怖いわけではないが、不気味なのはその内容だ。
何も明かされていない辺り、何をされるか分かったものじゃない。
しかし相手はケンタウロス。その知識の量はヒトのそれと比べ物にならないはずだ。
その上でフィレンツェの見抜いた通り、もしマナの巡りが良くなったら、魔力も元通りになるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけ、クリスは言われた通り満月の晩にフィレンツェの部屋を訪れた。
ノックをすると、落ち着いた男性の声が答えた。神秘的で涼やかな声に、クリスは一瞬息をするを忘れるほどだった。
「あのっ、クリス・グレインですが……」
「入りたまえ。丁度来る頃だと思っていた」
スッと扉を開けると、そこはいつも見る教室よりもより神秘的だった。
月明りに照らされた芝生は湿り気を帯び、木漏れ日さす太陽は、今夜は月明りに変わっている。
そしてなにより、天に大きく浮かぶ白い月と、それを見上げるフィレンツェの姿が現実味を失わせた。