第3章 【ハリーの怒り】
「ごめんなさい、悪気はなかったのよ。本当だから!!」
トンクスがカーテンを閉じようとしながら謝った。しかしビロードのカーテンは、何かの魔法でもかかっているかのように固く、閉じようとすればするほどカーテンがめくれて凄まじい叫び声を上げた。
その時、クリスはカーテンの隙間から醜い女の肖像画を見た。眼は飛び出し、口からは涎が垂れ、歯は黄色く、白髪頭を振り乱している。
収拾がつかないと思ったウィーズリーおばさんは、杖を取り出し、他の肖像画に失神術をかけて黙らせた。
代わりにルーピン先生がビロードのカーテンを閉めようと必死になっていたが上手くいかず、肖像画の女は歯をむき出しにして叫んだ。
「この薄汚い雑種めらが!よくもこの館に足を踏み入れられたな!出て行け、此処はわらわの館ぞ!先祖代々から受け継いだ神聖なる館に土足で踏み入れよって!このクズが!血を裏切る者め!今に天罰が下ろうぞ!!」
「煩い!このクソババア!!」
罵倒と共に応接間から飛び出してきた人が、トンクスに代わってビロードのカーテンを無理矢理引っ張った。
ルーピン先生と2人がかりで、やっとカーテンが閉まると、肖像画はカーテンの向こう側から小さな声で罵っていた。
「やっと静かになった。このクソババア……殺しても殺し足りないな」
「あの、シリ……ウス?」
「やあ、久しぶりだなハリー」
ハリーが問いかけると、応接間から飛び出してきた人――シリウスが、くるっと振り返って笑顔を見せた。
「クソバ……――コホン。私の母上に会ってくれてなによりだ」
その時のシリウスが見せた笑顔は、クリスの知る嬉しそうな笑顔でも、悪戯っぽい笑顔ではなく、皮肉とため息の混じったものだった。