第28章 【大切なもの】
そう言葉を締めると、ムーディ先生とキングズリーは再びパチンッとはじける音と共に姿を消した。
クリスは自分が出来る最大限の悪い予想をしておいた。しかしルーピン先生に連れられて、いざサンクチュアリの屋敷に「姿現わし」すると、思わずその惨状に呆然としてしまった。
人が居なくなって荒れたブラック家の屋敷とは明らかに違う。代々伝えられてきた調度品は壊され、壁のあちこちには穴が開き、部屋の殆んどは人為的に荒らされていた。
それを目の当たりにし、クリスは言葉を失った。
(――何だこれ?何だこれ?何だこれ?)
「クリス?クリス、大丈夫かいクリス!?」
ルーピン先生に肩を揺さぶられ、クリスはハッと我に返った。
そうだ、チャンドラー……チャンドラーはどうしたんだろう。こんなに屋敷が荒らされて、アイツが何もしなかった筈がない。
まさかアイツの身にも何か――そう想像した時、クリスは背筋がゾクッ…として慌ててムーディ先生の方に振り返った。
「せっ、先生!チャンドラーは……屋敷しもべの姿は見ませんでしたか!?」
「屋敷しもべ?いや、見ておらんが……」
ムーディ先生の言葉が信じられず、クリスはありとあらゆるところを探した。
あいつに限って屋敷を荒らしにきた『死喰い人』を許すはずがない。では、身の危険を感じてどこかに逃げたんだろうか?もしくは……。
とにかくクリスは厨房の隅や、お気に入りの書庫まで調べたが、そのどこにもチャンドラーの姿は無かった。
あと考えられるのは代々伝わる「秘密の部屋」か、屋敷の外の庭くらいだ。
だが「秘密の部屋」はパーセルタングを使わなければ開けることは出来ないから、きっと庭のどこかだ。
クリスは居ても立ってもいられず庭に飛び出した。
「チャンドラー!?どこに居るんだ、返事をしろ!!チャンドラー!!」
必死なって声を張り上げながら、チャンドラーの姿を探した。
外は大雪が降っており、猛吹雪と厚く積もった雪が足を進ませまいとしていたが、クリスは懸命に足を動かした。