第28章 【大切なもの】
クリスマスが終わり、とうとう待ちに待ったサンクチュアリの屋敷に戻る日がやってきた。
戻ると言っても護衛付きの上、時間も1時間だけと限られていたが、それでも父がいなくなって初めて戻る屋敷には不安と共に期待があった。
まずはチャンドラーと話しをしなくては。急に主人が帰らなくなって、きっと戸惑っているに違いない。
それともルシウスおじ様から、何かしら話しを聞いているのだろうか……。どちらにせよクリスとしては、手紙の一通も返さなかった理由を直接チャンドラー自身から聞きたかった。
屋敷に戻るには、まずムーディ先生とキングズリーが先行して屋敷の様子を窺い、危険が無いと分かったらルーピン先生と一緒に屋敷まで「姿現し」をするという段取りになった。
2人が戻ってくるのを、クリスはそわそわしながら待っていた。その落ち着きのない様子があまりにもクリスらしくないので、フレッドとジョージが大げさにクリスの真似をしてからかった。
それを見たクリスが怒ると、ハーマイオニーがそれをたしなめ、その様子を見てまたルーピン先生とシリウスが笑う。そんなありきたりな、ほのぼのとした午後だった。
――それがあんな事になるとは、その時のクリスは予想もしないなかった。
パチンッと音がしたと同時にムーディ先生とキングズリーが戻って来ると、クリスは目を輝かせた。が、2人の表情を見て一瞬にして顔が曇った。
2人とも、神妙な面持ちをしている。それは屋敷に何かあったと知らせるには十分だった。
「あの……何かあったんですか?」
「グレイン。何があっても屋敷に戻りたいか?」
クリスは一瞬迷ったが、コクンと首を縦に振った。もう現実から逃げるのは嫌だ。どんな状態であれ、きちんと自分の目で確かめたい。
ムーディ先生はキングズリーと目くばせをすると、重い息を吐いた。
「今のうちにハッキリ言っておこう、屋敷はかなり荒らされている」
「……覚悟はしています」
「ならば行こう。いつ『死喰い人』達がやってくるか分からないからな」
そう言うと、ムーディ先生とキングズリーは再びパチンッとはじける音と共に姿を消した。